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と、云つた。
「いためた?」
彼女はその表情を少しもくづさずにすつと引き下つたが、間もなく帰ると、
「まだ?ふん!よせ、よせ。阿呆らしい」
「それは勝手だが、あんなもの、温泉と思っちゃいかん」
「うむ、うむ」
「あいつらと来たら、すぐこれ!だからね」
房一はむつつりとしたまゝ答へた。
人に話しかけるときにも半分はきまつて独り言のやうになつてしまふ義母はどうもつれ合ひの道平の癖が丸うつりになつたものらしい。だが、道平の声音こわねはあまり響かないぽつりぽつり石ころを並べるやうな調子だつたのにひきかへ、この義母のは突拍子もなく起つて又駆足で空の向ふに消えてゆくやうな大声だつた。
老父に注意されるまでもなく、房一は河原町で医師として立つて行く上の先々の困難は十分心得ているつもりだつた。どんなに房一が成功者と目されたところで、一方では彼が河場の一介の百姓息子にすぎなかつたことを河原町の人達は忘れていはしなかつた。その上、河原町には古くから根を張つた大石医院といふものがあつた。
「すると、何ですか、十年契約といふやうなことにでもなすつたんですか」
河原の端にある高い築堤の上で、白い割烹着かつぽうぎを着た女が、口に手をあてて何か叫んでいた。
「いや、どうも」